紹介して頂いた先生は予約が詰まっていて、キャンセル待ちの状態だった。
それでも一ヶ月ほどした頃にキャンセルが出て、僕はそこに入れてもらえる事ができた。
期待と不安が混ざりあった複雑な心境であった。
僕が安心できる言葉は頂けるだろうか?それとも傷口が広がってしまうんじゃないか…。
そのままこの痛みに触れずにいても苦しみは続く、何を言われても受け入れようと心に決めた。
やがてカウンセリングの日が訪れた。
期待と不安は相変わらずであったが、先生と会った瞬間にそれは安心に変わった。
穏やかそうな女性の先生は、まるで包み込むように優しい言葉をかけてくれた。
「今日は、どうなされましたか?」
先生の問いかけに、
「飼ってたカメが死んじゃったんですよ…」と僕が返すと、先生はクスッと笑った。
それは僕を軽視するものではなく、小さな命に対する僕の想いに対しての慈しみであると感じた。
「今、こうやって私を訪ねて来て、苦しんでる想いも全部カメちゃんに伝わっていますよ。その想いに喜んでいますよ。」
先生が僕にそう伝えると、カウンセリングルームのあちこちから「カチッ、カチッ、カチッ」と音が鳴り始めた。
先生は僕の目を見ながら、「ねっ、そうでしょ。」と微笑んだ。
張り詰めていた気持ちが、ふっと緩んだ感じがした。
先生は更に続けた
「拳ちゃんは龍神様のご加護を授かっていますよ。これから先、私のように言霊を操り、人を苦しみから導く方向に生き方が変わっていきます。また、それが生業となっていきます。」
「僕は僧侶でもあるのですが、その事なのでしょうか?」と聞き返すと先生は「そちらとは違います。」と答え、龍神様が祀られている神社を教えて下さり、そこに出向いて開業の報告をして来るようにとアドバイスを頂いた。
龍神様…
なんとなくイメージは湧かない事はないが、実態の掴めない非常に抽象的なワードであった。
「僕は爬虫類が大好きで、ワニやヤモリやカメ…、いろんな爬虫類を飼ってきました。それと関係はありますか?」と尋ねると、「龍の子供とでも思っていて下さい。」と教えられた。
龍…


鋭い爪にギラついた眼、大きく開けた口には牙が光る…
そんな凶暴なイメージの龍に対し、龍神様とは一体どんなイメージを持てばいいのだろうか…。
この時の僕にとって、それを理解するにはあまりにも時期尚早であった。
1時間という予約枠はあっという間に過ぎて、またの再会をお約束して帰路についた。
龍、そして龍神…
そのご加護を受けている…
ちょっと不思議な感覚に包まれた経験であった。
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