今回は二十歳の時に経験した、インチキ占い師との思い出を回想したいと思います。
友人の運転する車の助手席から、僕は景色を眺めている。
国道から脇道に入ったとき、その歩道にポツンと立つ看板と目が合った。
[前世占い]
そう書かれた手作り感溢れる怪しげな看板が、僕に訴えかけている。
[おいで~!]
僕は助手席から友人に語りかけた。
「おいっ!前世占いだってさ!面白そうじゃね?」
友人も食いつき、二人で立ち寄ってみることに。
時はバブルの真っ只中。
あの頃は、日本中が[お祭り]状態。
怪しいセミナーの勧誘や、
お金儲けの怪しい誘い、
更には、怪しい宗教への勧誘と霊感商法。
胡散臭さ満載の時代でもあった。
金になるなら、他人の事など知ったこっちゃない。
地上げの横行も、社会問題となっていた。
今思えば、めちゃくちゃな時代であった。
そんな時代であるが故に、僕たちも半分は茶化し気分のノリで[前世占い]に向かった。
看板を横目に、入り口であろう扉を遠慮気味に開ける…。
すると、
三十代半ば位の男性が一人、椅子に腰掛けながらこう言った。
「どうされました?」
[どうされました?って、占い屋さんじゃないのかよ…]
[あれ?間違えて入っちゃったのかな…]
相手の対応に、そんな不安が生じた。
「あの…、看板が目に入って立ち寄ったんですが、占いですよね?」
そう確認すると、
男性はまるで他人事のように、
「あっ、占いね。視れますよ。」
[視れますよって、本職じゃねーのかよっ!]
心の中でツッコミを入れるも、
もう、その時点で結果は見えてしまった。
[はい、やっちゃった~。ハズレ引いちゃいました~]
そう思うも、
わざわざ来て「やっぱりいいです…。」はカッコ悪い。
バブル景気でお金はあるし、まっいいか。
腹を決めて
「前世、視て下さい。」
そうお願いすると、
真っ黒な口髭と、まるで猫の目のような男性は、
「じゃあ、そこに座って…」
と招き入れてくれた。
「どちらの方から視ましょうか?」
すると、友人が僕の背中を押した。
そりゃあ、そうだ。
僕が誘った訳だし、友人はきっと断るだろう。
僕は椅子に腰を下ろし、男性と向き合った。
「何を知りたいの?」
男性がそう語りかけてきても、
その言いまわしが、
やっぱり[角度]が違う…。
針のむしろのような、
そんな苦い空気の中、
僕は口を開いた。
「じゃあ、前世を視て下さい。」
すると、
男性は目を閉じて…
やがて、
閉じたまぶたを開けると
「ネコです!」
[オイっ!]
おもわず、どつきたくなる気持ちを抑えながら、
「ネコですか…?」
そう返すのが、やっとであった。
そんな、鑑定の発展には繋がらん答えに、
[もうええわ。]
最後にツッコミを入れて、お代の3000円を払って立ち去った。
車に乗り込むと、友人がニコニコしながら僕をからかってきた。
[やっちまったな~]
そう言いたげな目をしながら。
その[前世占い]は、それから一月もしない内に[幻]となって消えていた。
そんな[授業料]を払いながら、社会というものを学び今がある。
その今、
僕にいつも寄り添ってくれるネコニャン…。
僕がよそ事をしている時も、じっと僕を見つめている。
それに気づいた僕も見つめ返すと、二つの視線は重なりあうのだ。
ネコニャンには、[何か]を感じる。
会話はできなくても、想いで繋がるような感覚…。
その度に思い出すのだ。
この言葉を…
キミの前世は、
ネコです!
もしかして、それ事実だったりして…。

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