龍の胃袋

ある日の入浴中のこと。

湯船に浸かりながら、僕の意識は深く落ちていく…。

深く沈みゆく意識に映し出される映像…。

埋もれていた過去の記憶が蘇る…。

もう三十年も前のこと…

僕はまだ22歳か23歳だった。

トラックの運転手をしていた時の出来事…。

深夜となれば一般車両はほとんど見かけなくなり、国道は同業者のトラックばかりであった。

バブル景気に沸き立つ日本列島の異常さは、深夜の交通事情にも現れていた。

仕事の過労による居眠り運転で、中央分離帯を突き破って反対車線に飛び込む事故や、過積載による事故…。

そんな大事故をたくさん目にしてきた。

こんなトラブルを、ニュース番組が伝えていた事もあった。

国道を走行中の一般車両が、前方の信号が黄色になった為に停車した。

すると、後続のトラック運転手が降りてきて、「なんで止まるんだ!」と文句を言われ殴られたという。

確かにあの頃の[雰囲気]は、黄色は加速するという暗黙の空気があったのも事実であった。

皆、忙しく飛ばしていた。

テレビニュースは、[交通戦争]と表現していたのを思い出す。

バブル景気は、人間の[大切な根源]を麻痺させてしまっていたように思う。

自身も仕事をしながら、内側が破壊されていくのを感じていた。

あるべき本来の姿を見失い、[金]の為、会社の為と言い聞かせて、眉間にシワを寄せながら働いていた。

日本中が、[金]に踊らされていた。

[金]のせいで地上げにあい、住処を奪われた人がどれだけいたか…。

僕自身も本来の姿を失っている事に気づきながらも、そのバブルマネーにもたれかかっていた。

これは間違っている…

そう気づきながらも、世の中の流れに従うしかなかった。

そんな時代を生きる中で、僕の中の[龍]は成長していったのかも知れない。

そんなご時世の中、僕の運転するトラックは国道1号線を東に向けて走っていた。

とある観光地の交差点を左折して、1号線を後にして市街地を目指す。

二車線道路を暫く走ると、見慣れた筈の深夜の景色がやけに華々しい。

異常を感じながら、その光景に近づいていく…。

耳に薄っすらと入ってくる[ハチのBuzzる]音は、やがて大爆音のバイクのエンジン音へと変貌した。

無限大と表現しても決して大袈裟ではない程の、とてつもなく大量のバイクが二車線道路を埋め尽くしていた。

暴走族の集団であった。

ただ少し雰囲気が違うのは、二車線を埋め尽くしたバイク達は[渋滞]をおこし、動くことが出来ずにその場で[怒り]を空吹かしさせ吠えていた。

僕は、[その集団]の最後尾に並ぶ格好となってしまった…。

僕のトラックの前に居座る連中が、こちらに睨みを効かせる。

すると、反対車線にパトカーや消防の放水車などが姿を現した。

それに呼応するかの様に、バイクの数も更に増えてくる…。

僕のトラックの横にも、後ろにも…

完全に僕のトラックは暴走族の集団に飲み込まれ、爆音のノイズの餌食となっていた。

すると、反対車線の放水車から、こちらの車線に向けて放水が始まった。

もう、こちら側の車線はカオスである。

水圧でバイクを倒され転倒する者…

さらに[怒り]を込めて噴かす者…

[怒り]と[権力]の戦い…。

やがて大量の[機動隊?]がこちら側の車線に突入すると、カオスは更に加速した。

まるで[怒り]という、[龍]の胃袋の中にいるような…。

ただ僕は、運転席のシートから状況を見守るしかなかったのである。

やがて、向きを変え去っていくバイクも現れ出すと、少しづつ前に動ける状態となっていった。

道路脇で捕えられている者や、バイクを捨てて逃げた者…

一時間以上、足止めをくらってしまったが、徐々に[祭り]は終焉を迎えていた。

やがて警察官が誘導してくれてトラックを動かすと、止まっていた随分先にバリケードが築かれていた。

大量集団暴走を、この二車線道路で[網]に掛けたのだと理解できた。

[なんて日だ…!」

これが当時の想いだったろう。

そんな埋もれていた記憶…

内側に映し出された過去の記憶(ビジョン)を見ながら、気づかされたのであった。

[この時の感覚だ!]

[魂の双子]と出会い、僕の内側で幽閉されていた[負のエネルギー]が炙り出されて、僕の内側が[嵐]のように吹き荒れた時の苦しみ…

その時の僕の内側の状況は、まさに[龍の胃袋]に飲み込まれたあの時の、その中から見た[景色]と同じであった。

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